【セミナーレポート】3.人材開発セッション「分散時代に必要な人材マネジメントの新たなる潮流」

<3.人材開発セッション>3名のゲストスピーカーが「フィードバック」「個性」「全員戦力化」を解き明かす(13:00-15:30)

お昼休憩を挟み、13:00よりスタートしたのが「人材開発セッション」。
1人目の登壇者は株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山 哲人 氏です。

フィードバックが人の成長を加速する 〜サイバーエージェントの事例紹介〜

『フィードバックが人の成長を加速する 〜サイバーエージェントの事例紹介〜』と題したセッションは曽山氏自身、そして株式会社サイバーエージェントの紹介からはじまりました。経済産業省が人的資本経営のアイディアを提示する「人材版伊藤レポート」に記載された「人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素」。それを踏まえ、重要なキーワードとして曽山氏がピックアップしたのが「その本人が企業に属す『意味』」です。

社員が企業に属す意味を与えるにあたって「圧倒的な競争力になる」と曽山氏がお墨付きを与えるのが「フィードバックカルチャー」①成長に向けた前向きな行動を促し、②相手に対する信頼感を与え、③意味づけ=希少性の高い報酬を与えられる、とそのメリットは多岐にわたります。

ここから、セッションはサイバーエージェントの事例を用いた具体論へ。例えば、同社では新入社員と育成担当(=トレーナー)の双方に向け、フィードバックなどの対話を通じて成長を遂げる・促すためのチェックリストを制作。「月イチ面談」を推奨し、最優秀トレーナーを表彰する制度を設けているということです。

「育成の基本は『言わせて、やらせる』」(曽山氏)。新人と育成担当で責任をわかちあうことで、思考停止を防ぎ自主的な成長を促進するのです。ほかにも社員のコンディションを把握する「GEPPO」、社内転職制度「キャリチャレ」、役員対抗の決議案バトル「あした会議」などサイバーエージェントならではの人材開発の仕掛けはさまざま

期待をかけあう組織にしようという提言とともに、同社のスローガン「会社を楽しもう」が紹介され、曽山氏のプレゼンは閉じられました。

個性を活かす時代に必要な理論と実践 〜人材開発部門のプロフェッショナルへの道〜

人材開発セッション2人目のゲストスピーカーはヒューマン・ラポール研究所 代表 奥田 英二 氏です。『個性を活かす時代に必要な理論と実践 〜人材開発部門のプロフェッショナルへの道〜』というタイトルの通り、分散時代のキーワード「個性」にフォーカスした講義が展開されました。

みなさんは個性と聞いてどのようなものを思い浮かべられますか。
生まれつき個人ごとに明確に分かれており基本的には一生変わらない血液型のようなものでしょうか? それとも、誰しもが共通して持つ特性の量や程度に違いがあり、「パッションがある」「ネアカ」といった性質のように、見る人や場面など物差しの当て方で変化するものでしょうか?

「前者をタイプ論(類型)といい、後者を特性論という」と奥田氏は話します。今の世の中で支配的なのはどちらかと言えば特性論でしょう。しかし、「タイプ論も忘れてはならない」(奥田氏)。

特性論に乗っ取り、人は社会に求められる仮面(ペルソナ)を被ります。それが固有のタイプ(キャラクター)と合致していれば強みとなりますが、ズレがあれば強要されるのは辛いもの。「企業の人材育成はペルソナの育成に偏っていないでしょうか?」と奥田氏は問いかけます。

人間は事実よりも先入観を優先してしまう傾向──確証バイアスがあります。ヒューマン・ラポール研究所のクライアント企業30社を対象に行った調査で明らかになったのが「データ上、採用面接に確証バイアスは影響している」という事実です。

奥田氏曰く、「これは経営問題」。社員の多くが確証バイアスによりストレスにさらされた組織は、生産性が著しく低下するでしょう。ここで、自身の生まれながらのタイプを知るためのツールとしてエゴグラムが紹介されました。ストレスは必ずしも「悪」ではなく、程よいストレスがかかった「ユーストレス」状態が最もパフォーマンスが高まりやすいということです。

まずはタイプにあった言語で相手を承認し、関係構築を進めましょう。「個性という点からも社員の成長支援をしてみてください」と奥田氏は講義内容をまとめました。

働く人のココロをつかむ全員戦力化 〜優れた人材だけに頼らない経営〜

3人目、人材開発セッション最後となるゲストスピーカーは学習院大学 経営学部経済学部教授 / 一橋大学名誉教授 守島 基博 氏。セッションタイトルは『働く人のココロをつかむ全員戦力化 〜優れた人材だけに頼らない経営〜』です。

「今、働く人は大きく変化している」と守島氏。少子高齢化による労働力不足、価値観や人生における優先順位の変化などその要因はさまざま。デロイトトーマツグループの調査によると、日本のミレニアル世代の49%が2年以内に離職する意向を示しており、海外と比較して「ワークライフバランス」が重視される傾向にあるそうです。

また、日本は‟働きがい”においてグローバルに水を空けられていることでも有名。そして、新型コロナ感染拡大により、テレワーク、在宅勤務、Web会議、転勤廃止など社員の働き方と組織のあり方には大きな変化が生じました。

ここで必要な人材戦力は「全員戦力化」だというのが守島氏の主張です。これまでの人材マネジメントでは選抜層・優秀層に重点が置かれる傾向がありました。しかし、それは組織を構成する人材の2割程度に過ぎません。残りの7割、1割の人材を無視する余裕が、はたして今の日本企業に存在するでしょうか。

「優秀な人材が数多くいても、戦略と連動しなければ意味がない」(守島氏)。適材適所の人員配置に取り組み、明確なミッションを提示しましょう。人材の潜在能力を含めた多面的な把握も欠かせません。パフォーマンス・マネジメントを個別化し個々人の行動を経営目標とつなげることも求められます。

人手不足の時代、人的資本を確保するためには働く人のココロをつかむ全員戦力化が欠かせません。それが「人的資本経営における人事の役割」と守島氏は語りました。

内的・外的自己認識に貢献する2つのソリューション~「Blue」と「Fuel50」~

人材開発セッションの締めくくりとして、タレンタ株式会社 カスタマーサクセスマネジャー 忠村 佳代子よりご紹介したのが、人材開発に貢献するHRテクノロジー「Blue」と「Fuel50」の国内活用最新事例です。

自己認識には「外的」と「内的」の2種類が存在し、前者は他者がどう見ているかを理解する力、後者は自分のことを明確に理解する力を意味します。守島氏曰く、「個の尊重の前提は自己管理」。その第一ステップは社員一人ひとりに自己認識を促し、内面について深く考えてもらうことです。そして、「汝自身を知れ」はアリストテレスの時代から連綿と続く、人類のテーマでもありました。

カナダ・モントリオールのExplorance社が開発した「Blue」は、100~10万名規模のサーベイフィードバックを自動化するクラウドソリューション。人間心理に配慮しかつ、運用が容易な多面観察(=多面観察のポジティブ化)を提供し、外的自己認識を促します。

多面観察で発生しがちなのが、心理的抵抗感や運用の大変さ、儀式化といった問題。Blueは、具体的な行動例・マインドセットの記載や画像を使った工夫により自然な意識・行動変容をサポートします。さらに、レポート作成・配布のプロセスは劇的に効率化可能。

一方、ニュージーランドの女性組織心理学者2名が開発した「Fuel50」は、カードゲームのプレイを通じた自身の価値観・動機の見える化により内的自己認識を助けます。このソリューションが注目するのは、人間の心理・行動のベースに存在する価値観と動機前者は‟大事にしている意識や考え方、状態”、後者は‟仕事への充実や熱中を生むやる気のスイッチ”とも言い換えられます。

内的自己認識に関わるツールとして著名なストレングスファインダーとFuel50の違いは、Fuel50はユーザーの主観と本人の解釈を重視し、「ワークエンゲージメントの源泉」の見える化につながるということ。それにより結果に対する納得度を高め、仕事への熱意の源の発見を促進します。

両ツールをコーチング、フィードバックと掛け合わせることで、自己認識はさらに深まるでしょう。まずは実施に前向きなチームや自分たちで使い始め、成功例を積み上げていくことで、社内への定着化が進めやすくなります。そうして、自己認識を社員の意識・行動変革につなげていきましょう。

文:宮田文机

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