自律と成長を促進するHRテクノロジーFuel50 特別対談 人材マネジメントの潮流~変えるべきことと変えざるべきこと~ (第1回)

Fuel50-eyeタレンタ株式会社では、2020年より自律と成長を促進するHRテクノロジーFuel50の提供を開始いたしました。Fuel50は2014年にニュージーランドの女性組織心理学者2名によって開発されました。現在は14ヵ国語に対応し、全世界80社以上で利用されています。今回はこれからの日本企業に必要とされる人材マネジメントの在り方を、日本の人材マネジメント研究の第一人者である守島教授とHRエグゼクティブコンソーシアムの代表を務める楠田氏に語って頂きました。本ブログでは全3回にわたり対談の内容をお送りします。

対談内容サマリー

第1回 ・ シリコンバレーのグローバル企業に学ぶ働き方の変化
・ 日本企業が変わらなければいけない理由
・ ワークエンゲージメントがアウトプットを上げる
第2回 ・ 仕事自律ありきのキャリア自律
・ 価値観の多様化とコミュニケーション変革
第3回 ・ 2種類の心理的安全性
・ 人事が変えるべきことと変えざるべきこと

 

対談者プロフィール
学習院大学教授/一橋大学名誉教授 守島 基博 氏
1980年慶應義塾大学院社会学研究科修士課程卒業。1986年米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得。カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。1990年慶應義塾大学総合政策学部助教授、98年同大大学院経営管理研究科助教授・教授、2001年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より学習院大学教授、2020年より一橋大学名誉教授。戦略的人材マネジメント論、特に企業の競争力に寄与する人材マネジメントのあり方を多様な側面から研究している。米国を中心とした海外研究専門誌の編集委員になっており、政府審議会などの委員参加も多数

HRエグゼクティブコンソーシアム代表 楠田 祐 氏
楠田先生NECなど東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。会長を経験後に中央大学ビジネススクール客員教授(MBA)を7年間経験。2015年は日テレのNEWS ZEROのコメンテーターを担当。2016年より大企業30代の人事育成「人事リーダ-ズスクール」のコーディネイターを担い、これまでに620人指導。同年より人事向けラジオ番組「楠田祐の人事放送局」のパーソナリティを毎週担当。2020年4月にはリスナー計140万人を突破。2017年より大企業120社が会員のHRエグゼクティブコンソーシアム 代表就任。2018年より人事向けラジオ番組「楠田祐の人事セントラルステーション」のパーソナリティを担当。リスナー計15万人を突破。2020年より大企業20代の人事育成「戦略人事の基礎スクール」の座長を担当

シリコンバレーのグローバル企業に学ぶ働き方の変化

楠田:2017年、アメリカ合衆国のカリフォルニア州だけのGDPは英国を抜きました。(カリフォルニア州 2兆7470億ドル、英国2兆6250億ドル)デトロイトを中心とするアメリカ中西部のラストベルト(Rust Belt :錆びた地帯、「rust」は「錆」という意味で、使われなくなった工場や機械を表現)領域の停滞により、肉体的な労働や、その組織、仕事の進め方、働く人の価値観が大きく変わりました。シリコンバレーの働き方は、知的労働であり、組織の構造や仕事の進め方、働く人の価値観は多様化しました。同じ知的労働でも、ニューヨークの価値観とも違います。シリコンバレーではより、自由、自律が大切にされています。

守島:東海岸はまだまだ以前の働き方がのこっていますが、西海岸は仕事やキャリアに対する向き合い方が全然違います。キャリアは自分で築いていくものという考えが強いです。キャリアがうまくいけば、お金持ちになり、生活が豊かになる。だからこそ、一つ一つの仕事に対して一生懸命に取り組みます。仕事に対してもキャリアに対しても真摯に向き合っています。結果として、仕事に対するエンゲージメントも高くなります。

楠田:シリコンバレーは、サンディエゴから今ではサンフランシスコのベイエリア周辺にまで名だたる企業が集まっていますね。

守島:今ではベイエリアまででなく、シアトルまでがひとつの労働市場になっています。地理的に間にあるオレゴンは気候も良く、物価も高くないため、住みたい街として人気があります。オレゴンも労働市場に組み込まれてきており、西海岸は労働市場として自由な動きが整備されています。

楠田:夕方は4時に自動車で帰宅し、家族と夕食を食べ、子供が寝てから、家で仕事をする。このような柔軟な働き方と人材マネジメントのやり方は、シリコンバレーにあるインターネット業界だけで通用するのでしょうか。日本の伝統のある製造業の方たちは「それはインターネット業界だからできる」とおっしゃる人もいます。シリコンバレーで有名なセールフォース・ドットコムやシスコシステムズなどグローバル企業の日本支社でもエンゲージメントが高いです。(Great Place to Work®による日本における「働きがいのある会社」 ランキングでセールフォース・ドットコムは2019年・2020年第1位、シスコシステムズは2018年第1位を受賞)同じくシリコンバレーに本社のあるオラクルの在宅勤務マニュアルには「マネージャーは部下に対して家族を一番大切にしなさい。第二にパフォーマンス。」と記述されており、日本オラクルでも翻訳されて、現在も使用されています。彼らは世界中でセミナーや講演を行っており、東海岸やヨーロッパの伝統のある製造業も彼らから学ぼうとしています。

日本企業が変わらなければならない理由

楠田:日本企業は働き方を変えずに、グローバルに加速していく世の中で戦っていけるのでしょうか。

守島:日本企業は変わっていかなければ、グローバル市場から置いていかれます。以下の三つはアメリカで在宅勤務が進んだ理由ですが、日本にも学ぶべき点があります。一つ目は女性活躍。これからはますます女性が進出すべきです。いくら進んでいるアメリカといえども、物理的に育児は女性が関わる部分が多いです。早く帰宅して、子供と過ごす時間を確保することが必要となるため、柔軟な働き方が必要なのです。二つ目は中核的なワーカーのメンタリティの変化です。従来ラストベルト的な製造業のワーカーが標準であったのが、ITに変化しました。ITに従事するハイテクな知識を持つ人たちは、自分たちのライフスタイルを変えようとはしません。自分が大切だと思うものは大切にしたい。夕方に帰宅して家族との大切な時間を過ごしたい。これはミレニアルズにも共通するものです。三つ目はグローバル化。アメリカの場合、企業の拠点間でサンフランシスコからニューヨークに移動するには6時間半かかり、時差も3時間です。そのため従来から遠隔作業せざるを得ない状況があり、その後徐々にグローバル化していきました。ニューヨークから見るとサンフランシスコとの距離感もヨーロッパとの距離感もアジアとの距離感もほとんど同じ。このような環境下、アメリカではテレワークが浸透しました。ある調査によると2019年10月時点で週2日テレワークを行っている企業が30%程度。コロナが起こる前でもアメリカの一部の業種ではテレワークが実施されていたため、インフラ面でも考え方の面でも整備されており、今回のコロナの状況下においてもテレワークへの移行が進んでいます。ただ、アメリカ企業も苦労しているのは同じです。「どのようにリモートで働いている従業員をマネジメントするか」というテーマのウェビナーが頻繁に開催されています。日本と違う点は、アメリカは企業の一部テレワークを実施していたため、すでに知識としてやり方の経験があったこと。これをどのように横展開するのかを今行っています。

楠田:パンデミックの影響で世界中がリモートでどのようにマネジメントするか悩んでいますよね。

ワークエンゲージメントがアウトプットを上げる

楠田:経済産業省の資料によると働き方改革第二章は「エンゲージメントと生産性向上」と言われています。守島先生は最近の講演でも、働きがいとワークエンゲージメントを分けてらっしゃいますよね。この違いを企業の人事の方は整理された方が良いと思います。こちらの違いを解説頂けますか。

守島:「働きがい」とは働く意味。「何のために仕事しているのか」ということです。パーパスやミッションに近い。極端に言えば、対象が仕事でない場合もあります。子供を育てる、家庭を円満に保つ、お金持ちになる、サーフィンをやるなどでもいいわけです。「働きがい」は働く意味なので、それは何であっても良い。ただ、企業としては、「働きがい」に仕事が絡んでほしい。日本の場合、高度経済成長期はそれがうまく回っていました。仕事を頑張ることで、給与が上がり、結果として生活が良くなっていたからです。仕事を頑張ることが自動的に家庭を良くすることに繋がっていたのです。しかしながら、近年はミレニアル的な考え方になり、仕事と絡まない「働きがい」を持つ人が増加しました。これが一つのポイントであり、企業は仕事を通した「働きがい」に戻していかなければなりません。一方、「ワークエンゲージメント」は仕事と本人の関係のあり方のことです。「仕事に没入しているのか、頑張っているのか、どれだけ熱量をかけているのか。」の指標です。働く理由は何であっても良い。Fuel50ではワークエンゲージメントの要因や満足度も見える化できるようですね。

仕事が面白いから、お金がもらえるから、家庭にいい生活が提供できるから、子育てができるからであってもよいのです。仕事に対して本人がどういう感覚をもっているかなので、より生産性やパフォーマンスに近い。「働きがい」を指標にすると、働く意味が仕事でない人は対象外になってしまうが、エンゲージメントが高い人というのはそれが何であっても良い。ワークエンゲージメントを指標として使うことは正しいと思います。

楠田:生産性を向上させるためにRPA(RPA:Robotic Process Automationの略、ロボットによる業務自動化)に取り組む日本企業が増加していますが、課題はありますか。

守島:生産性を上げるためにはコストを下げる方法とアウトプットを上げる方法があります。日本の生産性向上はコストを下げる方へずっと努力してきましたが、コスト削減には限界があります。ものを作るときに、どう頑張ってもコスト0円にはできません。一方、アウトプットを上げる方は、いくらでもいろんな方向にいく余地があります。私は日本の生産性向上は今までのコスト削減型から転換期に来ていると思います。RPAはコスト削減の方向であり、限界がきます。これからはどうやって創造性を上げていくのか、アウトプットを上げていくのかを考えていかなければなりません。「どうやって新しい商品やサービスを作っていくか」を考えることが大切です。

楠田:モノづくりはコストダウンによって価格を抑えてお客様に提供するというプロセス。日本企業は製造業の組み立てを中心とするコスト削減のプロセスが今も行われているということですね。

守島:製造業がベースの経済なら良いのですが、これからハイテクを使って新しいものを作っていくためには、新しい生産性が必要になります。

 

第2回に続く


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