vol.27  2024/03/21 発行

今年は新年の幕開けから自然災害から始まりましたが、防災対策は整っていますでしょうか?
古来より日本人は災害の度に智慧をつけ、集落を守りながら一致団結して暮らしていました。近年はオンライン化が進む中、声を掛け合うことが少なくなりましたが、2週間分の食料、簡易トイレなどの必需品を備えて、人も助けられるまでの準備を是非みなさんと一緒にできたらと思います。-Work Delight Picks編集室より-

-目次ーーーーーーーーーーー
HR最前線
エンゲージメントを向上させる「ジョブ・クラフティング」とは?
Work Happy!”を実現する最新ウェルネス情報
細胞レベルで健康になる食事術
今月のPick Book!
『客観性の落とし穴』 村上靖彦著(ちくまプリマー新書)

HR最前線

エンゲージメントを向上させる「ジョブ・クラフティング」とは?

近年、「ジョブ・クラフティング」という概念が注目を集めています。いま日本では、少子高齢化による人材不足が深刻化し、企業は社員全員の戦力化を迫られています。また、離職率の高さも企業にとって大きな課題であり、優秀な人材を確保・維持するための取り組みも必要不可欠となっています。このように経営や組織マネジメントという観点で、社員の働きがい、いわゆるワークエンゲージメントを向上させることはますます重要になってきています。しかし一方で、日本の従業員のエンゲージメントはここ10年以上、欧米諸国と比較して大きく低迷する状態が続いています。こうした中で、ワークエンゲージメントを向上させる一つの方法として、いま「ジョブ・クラフティング」が注目されています。本記事では以下、文献を参考にしながらジョブ・クラフティングについてご紹介させていただきます。

ジョブ・クラフティングとは?
ジョブ・クラフティングとは、簡単に言うと「働く人が自ら仕事に対する認知や行動を変えることで、やりがいを感じない仕事をやりがいのあるものへと変えていく行動」です。具体的には、以下の3つの行動を通じて、仕事の内容を自分自身で調整することで、仕事に主体的に取り組むことができます。

  • 要求度の低減:仕事量が多すぎる場合、担当する業務内容や役割を調整するなど。

  • 資源の向上:同僚や上司との関係性を構築し、協働の質を高めるなど。

  • 挑戦の向上:今までよりも難しい仕事へチャレンジするなど。

ジョブクラフティングのマネジメント
では、どのような施策がジョブ・クラフティングを促進するのでしょうか?ここで、とにかく社員の自律性を高めればいいんだ、という考え方には注意が必要かもしれません。たしかにHackman&Oldhamによる職務特性理論によれば、「職務の自律性」を高めることで、社員の仕事への内的なモチベーションを高められることが予想されます。しかし、参考文献によれば、本人が望まない職務の自律性は、むしろ仕事のやりがいを損なう可能性もあるというのです。このように、社員一人ひとりの価値観も多様化するなか、マネジメントからの一方的な視点に基づく、いわばトップダウン的な職務設計ではなく、あくまでボトムアップ的な社員の自発的な行動を引き出すことが重要です。では、具体的にどのような施策が社員のジョブ・クラフティングを促進するうえで有効なのでしょうか?参考文献(1)では、例えば、

  • 訓練に関する人事施策人材開発など従業員の能力を高めるための施策

  • ケアに関する人事施策:従業員の心理・身体的な健康を高めるための施策

  • インクルーシブリーダーシップ多様な従業員のインクルージョンを高めるようなリーダーシップ

を挙げています。また上記のような施策は、職場の「心理的安全性」を媒介しながら、社員のジョブ・クラフティングを間接的に促進するとのことです。

「静かな退職」という仕事観の変化
最近、米国を中心として、z世代の働き方のひとつである「静かな退職」という言葉が注目されています。「静かな退職」とは、仕事でのやりがいやキャリアアップなどを求めずに、必要最低限の仕事を淡々とこなすような働き方をいいます。こうした働き方の背景には、従来の仕事中心の価値観から、「自分自身の人生を充実させる」という価値観への変化や、SNS・ネット上のコミュニティや活動の多様化、そしてそれらへの参加機会の増加が背景にあると考えられます。このように、人生における「仕事」の意味は、今後ますます相対化されていくのかもしれません。
しかし、そんな時代だからこそ、今回紹介したジョブ・クラフティングのように、よりいきいきと仕事に取り組むことのできる環境作りが大事になるのではないでしょうか?また、環境を整えるだけではなく、社員一人ひとりが改めて、目の前の仕事が自分の人生においてどのような意味があるのか、また、今後自分はどのようなキャリアを歩んでいきたいのかといった仕事観やキャリア観を深める機会が必要になるのかもしれません。

【参考文献】
(1)森永雄太 (2023).『ジョブ・クラフティングのマネジメント』.千倉書房
(2)川上真史, 種市康太郎, 齋藤亮三 (2021).『人事のためのジョブ・クラフティング入門』.弘文堂

”Work Happy!”を実現する最新ウェルネス情報

米国の最新ホリスティック栄養学に基づく心と体の健康情報をお伝えします。

細胞レベルで健康になる食事術
前回のWork Delight Picks(Vol.26 細胞レベルで健康になる)に続き、今回は細胞レベルで健康になる食事術をお伝えいたします。

■抗酸化機能を高める
Vol.25 サビない体をつくる~活性酸素を作り過ぎず、きちんと排出する~でもお伝えした過剰に発生した活性酸素は体に様々な影響を与えてしまいます。体全体が正常に保つために、抗酸化機能を高める習慣を取り入れ、必要以上の活性酸素を作らない、排出できるようにすることが大切です。

ビタミンACE(エース)
ビタミンA,ビタミンC,ビタミンEは、体の活性酸素を取り除く作用があるので、積極的に複数を組み合わせて食事から摂りましょう

  • ビタミンA:にんじん、かぼちゃ、ほうれん草、レバーなど
    (脂溶性ビタミン:油と組み合わせて摂ると吸収アップ)

  • ビタミンC:パプリカ、トマト、ブロッコリー、キウイフルーツ、レモンなど
    (水溶性ビタミン:水に溶けやすく、熱に弱い、鮮度のよいものを食べる)

  • ビタミンE:クルミ、ピーナッツやアーモンドなどナッツ類、モロヘイヤやブロッコリーなど(脂溶性ビタミン:油と組み合わせて摂ると吸収アップ)

■ミネラルバランスを整える
人間の身体に必要なミネラルですが、体内では合成できないため、食べ物から摂らなければなりません。

  • 亜鉛:免疫力を維持するのに役立ち、活性酸素を除去する酵素の構成成分としても使われる(牡蠣、豚レバー、タラバガニ、チーズなど)

  • セレン:活性酸素の分解する働きがある。日本の土壌には適度にセレンが含まれているので、通常不足にはならないと考えられています。

  • マグネシウム細胞内外のミネラルバランスを調整する働きがある。マグネシウムとカルシウムのバランスが崩れ、マグネシウム不足になると2型糖尿病やメタボリック症候群の発症を高めることがあると臨床栄養疫学研究で示されている。

■細胞膜の脂質の質を高める
細胞の表面を覆う細胞膜は、オメガ3脂肪酸が材料のひとつです。オメガ3脂肪酸は細胞をしなやかにし、血管もしなやかに血液の流れが保たれます。
オメガ3脂肪酸は体内で産生できないため、食べ物から摂る必要があります。オメガ3脂肪酸の1日の摂取基準量は約2gとされています。イワシ、サンマ、アジなどの青魚やえごま、アマニ油、チアシード、クルミなどがあります。オメガ3脂肪酸は少量で良いのでアマニ油ティースプーン1杯を食事にかけたり、サプリメントのように飲んだりするだけで良いので継続しやすいかと思います。オメガ3脂肪酸は加熱すると過酸化脂質という体に有害な油に変化しますので、必ず生のまま摂取してください。

■ファスティングで臓器の休息を
ファスティングと聞くと断食で数日間食べられないつらいイメージを持つ方も多いかと思います。専門家の指導のもと行うファスティング(断食)は体にとって有効な手法の1つです。
ファスティングの意味の1つは、臓器を休ませ、細胞の自食作用(細胞が自ら細胞内の物質や成分を分解、リサイクル、排出する作用=オートファジー)を正しく機能させることです。まずは1日の食べている時間を見直し、食事と食事の時間をきちんと空けること、空腹を感じてから食事をするなどしてみてはいかがでしょうか。

健康に関する情報が溢れ、様々なことが提唱されています。特定の食べ物・手法にこだわらず、色々な食材を取り入れることを心がけ、自分の体の変化に目を向け、自分が心地よい状態を作っていただけたらと思います。

【参考】
一生役立つきちんとわかる栄養学―飯田薫子・寺本あい監修(西東社)
veggyvol.90「不老腸寿」

今月のPick Book!

人事・心理学などの書籍・記事から、編集室のお薦めを解説交えてお伝えします。

『客観性の落とし穴』
村上靖彦著
(ちくまプリマー新書)

「その意見って、客観的な妥当性がありますか?」

もしかしたら、このメルマガを読んでいらっしゃる方の中には、このような一言を聞いたことがある、言ったことがある方がいらっしゃると思います。皆さんは「客観」を良いものと捉えていらっしゃるかもしれません。組織運営の判断やリスクテイクの為には、自らの経験や勘に頼りきることなく、客観的な指標を参考にする必要があるでしょう。就職活動において、学生が定量的な客観指標を用いて自らの経験を話すのも、自分の感想だけでなく、より他の人が自分の努力を理解しやすくするためです。

客観性は、現代社会において一定の市民権を得ているといえるでしょう。しかし筆者はこのように客観性が絶対視されがちな風潮に警鐘を鳴らしています。

科学の発展に伴い、様々なもの・概念が数値化され、日常生活に浸透してきました。例えば、医学のエビデンスやリスクも数値化されたことで、私達は自らの行為を確率や統計に照らし合わせることができるようになりました。その過程により、統計はある傾向を示すものから、事実や世界の法則そのものを示すものと変わり、リスクとして個人の行動を縛るようになったともいえるでしょう。

筆者は「社会の実質が変化して「不確実でリスクに満ちた社会」になったというよりも、数値化されたことで社会や未来がリスクとして認識されるようになった。」と述べています。数値によるリスク予測ができるのは、リスクの責任を個人に帰することにもつながります。そんな社会は不安に満ちていることでしょう。数字や客観性に支配されるということは、人間の個別性をそぎ落とし、有用性や経済性で価値を測られる分断された世界を作ることです。このように、筆者は客観性信仰が溢れた社会を論じた後、生産性志向、障がい者支援、優生思想、ナチスドイツまで議論を広げ、客観性と数値の息苦しさの構造を紐解いています。

さて、その苦しさから、私たちは解放されるのでしょうか。個別性が損なわれることによる分断・客観性主義や苦しさに対し、筆者は個別の経験・語りを尊重することを述べています。第5章から第6章に描かれる個人の生々しく、ダイナミックな経験からは、筆者の敬意に満ちた全人的理解を感じ取ることができます。是非おすすめいたします。

Work Delight Picks vol.26
HR最前線
楠田祐氏/アレン・マイナー氏 対談レポート「日本の会社の抜本的人事改革への道程」
Work Happy!”を実現する最新ウェルネス情報 細胞レベルで健康になる
今月のPick Book! 「組織の経済学」
伊藤秀史 (早稲田大学教授),小林創 (関西大学教授),宮原泰之 (神戸大学教授)/著(有斐閣)

Work Delight Picks vol.25
HR最前線
人材のポテンシャルを解放する「ヒューマン・ポテンシャル・インテリジェンス」
Work Happy!”を実現する最新ウェルネス情報 サビない体をつくる~活性酸素を作り過ぎず、きちんと排出する~
今月のPick Book! 対立の炎にとどまる~自他のあらゆる側面と向き合い、未来を共に変えるエルダーシップ~
アーノルド・ミンデル著(英治出版)

Work Delight Picks vol.24
HR最前線
「HR Tech Conference & Expo 2023」レポート(後編)
Work Happy!”を実現する最新ウェルネス情報 自分を「ご機嫌」な状態にする習慣
今月のPick Book! 『民俗学がわかる事典』新谷 尚紀編著(角川ソフィア文庫)