米国AI動画面接規制法の概要とAI面接の倫理・法務リスク〜 HRテクノロジー時代におけるAI倫理的進歩 ~

【はじめに】
人工知能(AI)を利用した動画面接システムが本格的な普及期を迎えています。動画面接サービス各社から「AI面接」を標榜するソリューションが出揃い、日本の主要企業も次々とAI面接の導入に踏み切っています。AI面接の導入により、企業は選考の初期段階でポテンシャルの高い学生を特定することができ、選考プロセスを大幅に効率化できます。また学生は公平な選考を受けることができ、フィードバックレポートにより自分の行動特性に関する「気づき」を得ることもできます。

【AI面接の歴史】
日本の動画面接の歴史は2015年11月のHireVue日本上陸からスタートしました。動画面接は導入企業と学生の双方に大きなメリットがあったため、5年間で10社以上が市場に参入しました。さらにコロナ禍もあり、現在オンライン面接の導入率は9割に達しています。一方で、オンライン面接だけでは候補者の見極めができない、録画した映像をチェックするのは疲れるなど様々なPAIN(痛み)を訴える企業も増えてきました。こうした背景から、これまで慎重だった日本の主要企業も今年からAI面接に踏み切り始めたものと考えられます。

【AI面接の倫理問題】
日本のDX市場は5年遅れで米国の潮流が押し寄せるという経験則があります。例えばタレントマネジメントのクラウドサービスは2010年に米国でスタートし、日本では2015年から国産プロバイダーの本格参入が始まりました。AI面接も2015年に米国でスタートして、いま日本が本格的な普及期を迎えています。
現在、北米の採用DX市場では「AI面接の倫理問題」が発生しています。AI面接のアルゴリズムに対して人種差別の懸念を訴える動きがあり、これを規制する法律が各州で成立・施行されているのです。米国の動画面接サービス各社は「AI面接の倫理問題」に急遽対応を迫られています。過去の経験則では5年以内に日本にもこの潮流が押し寄せることが予想されます。

【AI動画面接規制法の概要】
2020年1月1日、米国イリノイ州で世界初のAI動画面接規制法(AIVIA: Artificial Intelligence Video Interview Act)が施行されました。

  1. 企業は自社が導入している動画面接システムがAIを利用しているかどうかを調査する義務を負います。
  2. 企業は動画面接システムの利用規約を確認して、AIVIAの義務を遵守する内容となっているかを確認する必要があります。
  3. 動画面接システムがAIを利用している場合、導入企業はAIVIAの要件に準拠するために、以下の措置を講じる必要があります。
  • 通知:企業は動画面接の分析にAIを使用していることを事前に候補者に通知しなければなりません。
  • 透明性:企業は動画面接のAIがどのように機能するか、何をどう分析するのかを候補者に説明しなければなりません。特に「顔の表情分析」については詳しい説明が必要になります。
  • 同意:企業はAIを使用することについて候補者の同意を事前に取得しなければなりません。
  • 動画共有制限:企業は候補者を評価できる人だけに動画共有範囲を制限しなければなりません。
  • 破棄する義務:企業は候補者の要求に応じて30日以内に動画を破棄しなければいけません。

【AI面接の高度化】
AI面接が従来分析してきた要素は「声のトーン」「顔の表情」「単語」「文章」「文脈」などでした。顔の表情分析では顔面動作単位(Facial Action Unit)に基づく視覚分析を行ってきましたが、今回これが規制対象となりました。
一方、HireVueのCEO Kevin Parker氏は「最近の自然言語処理の進歩に伴って言語使用法・会話内容の分析による職務遂行能力の予測力が大幅に向上しており、視覚分析をストップしても予測精度に大きな差は見られない」とコメントしています。次項ではAI倫理問題をクリアするためにHireVueが実施している対策について、同社のプレスリリースに基づき解説します。

【AI面接の倫理対策(HireVueの場合)】
1. AIアルゴリズム監査の受審
HireVueはHRテクノロジー企業として世界で初めて、ORCAA社によるAIアルゴリズム監査を受け、問題なしとの監査結果を得ました。ORCAA社はマサチューセッツ工科大学の著名なAI研究者であるCathy O’Neil女史が創業した、AIアルゴリズム専門の第三者監査機関です。同社の監査報告により「HireVueのAI動画面接のアルゴリズムには倫理上の問題は存在しない」ことが確認されています。

2. 視覚分析コンポーネントの削除
HireVueは2020年の初めにAI面接から顔面動作単位(Facial Action Unit)に基づく視覚分析コンポーネントを削除しました。最近の自然言語処理技術の進歩により言語分析の機能は大幅に向上しています。そのため視覚分析を中止してもAI面接の性能はほとんど低下しません。これが今後のAI動画面接システムの業界標準となることをHireVueは期待しています。

3. 言語分析の高度化への取り組み
HireVueの使命は採用選考プロセスの公平性と民主性を高め、社会に利益をもたらすことです。HireVueは音声分析の専門企業と提携することで、言語使用法および会話内容の分析技術を磨き、職務遂行能力の予測精度の高度化に取り組んで参ります。

4. AIモデル開発方針
HireVueは「バイアスに基づく否定的影響力(Adverse Impact)の可能性を最小限に抑え、仕事に直結する能力評価に基づく意思決定だけ」を支援すべく、以下の方針でAIモデルを構築しトレーニングしています。

  • 最も有望な候補者と、最も有望でない候補者を区別する職務上の明確なパフォーマンス指標を定義します。
  • 組織心理学の研究に基づいて職務遂行能力を予測するために、コンピテンシー単位で適切な質問を行い、測定可能な応答を候補者から引き出します。
  • モデルをトレーニングして、仕事の成功を予測するのに役立つデータポイントのみを使用するAIモデルを構築します。
  • AIモデルのアルゴリズムを厳密に監査して、バイアスに基づく否定的影響力がないことを確認します。
  • 万が一、偏った結果を引き起こす要素が発見された場合は、それを削除します。
  • AIモデルを再トレーニングし、再テストします。
  • この手順を繰り返し、アルゴリズムを進化させていきます。

5. 第三者倫理委員会の発足と貢献
HireVueは2019年に第三者諮問委員会を設置した最初のHRテクノロジー企業です。この委員会のメンバーにはAI倫理、アルゴリズムバイアス、多様性と包含性、データセキュリティとプライバシーの専門家を揃えており、HireVueの製品開発チームをレビューし、アドバイスを行います。

6. 法的規制、公的ガイドラインへの完全準拠
HireVueはイリノイ州をはじめとする全米各州の「AI動画面接規制法」に完全に準拠しています。また米国労働省の定める「従業員選択プロセスに関する統一ガイドライン」にも完全に準拠しています。これらの準拠性については上記第三者倫理委員会が常にサポートしています。

【おわりに】
COVID-19の蔓延と世界的な「在宅勤務」の増加により動画面接システムの市場は2020年から2027年までの年平均11.3%の成長が予測されています。世界的なDXニーズの高まりにより今後様々なAI面接・採用DXソリューションが登場することでしょう。日本企業の皆様は製品選定の際に本稿でご紹介した【AI面接の倫理対策】をベストプラクティスとしてご参照ください。もしこれを同レベルの方針・対策を実施しているAI面接プロバイダーがあれば、それは信頼に値する製品だと思います。
HireVueは「一連の厳格な倫理原則を順守する」ために、リスクを先取りして大胆な対策を取っています。私たちタレンタ株式会社はHRテクノロジーの専門家集団として、日本のお客様の「転ばぬ先の杖」となるべく、世界で最も安全で倫理的なAI選考ソリューションをご提案して参ります。